「第1話 カウントダウン」
今から約10年前の事。
日本でOLをしていた私は、会社と家を往復するだけのマンネリな生活を続けていました。
マンネリだけならまだいいのかもしれませんが、この当時は不運続きで母は天国へ1人そそくさと旅立ち、その少し後には当時、長年付き合っていた彼氏にフラれ失意と不幸のドン底に叩き落されてしまっていました。
仲良く歩いている母娘を見ては涙が出そうになったり(自然に出てしまったことも何度か)、仲良く歩いているカップルを見ては 「恨めしや〜」 という目で見たり・・・
実はこの時、仕事でもいろいろありまして精神的にも参ってしまい円形脱毛症にはなるわ、分けも無く急に息苦しくなって目の前はチカチカするわ、挙句の果てにはフっと意識がなくなりそうなときもありました。
一度病院に行ったのですが原因分からずです。
とても怖くて 「このままじゃ自分がどうにかなってしまう・・・」 「体重も日に日に落ちて行く・・・・マジで死んじゃうかも」 と恐怖におののく日もありました。
しかし 「このままではいけない」 「自分を変えたい」 「何かしなきゃ」 「これでいいのか私?」 とそんな暗い人生から弱々しいながらにも何とか這い上がろうとしていました。
でも一体何すりゃいいのか?「どうしたら今の状況から立ち直れるのか?」・・・・何度も何度も自問自答の日々。 しかしながら出てくる答えは決まっていつも同じ 「こんな私に何が出来る?」
「何かしなきゃ」 と焦る自分と 「でも何も出来ない」 と苛立つ自分。 それでも時間は無情にも刻々と過ぎふと思えば 「あれっ?もう30手前じゃん」 と三十路へのカウントダウンが始まっていました。
「第2話 英語との出会い」
そんな生活を繰り返していたある日の通勤途中の朝。
いつもは静かなはずの駅が何やら騒がしい。
「この度オープンします英会話の○○で〜す」 と若いお姉さんお兄さんが元気な声でチラシ配りをしていました。 そして 「よろしくお願いしまぁーす」 と言って私の目の前にいたお兄さんが私にチラシを渡したのと同時に条件反射でそれを手に取ったのでありました。
「へぇー英会話か・・・」 程度にその時は思い、普通ならそのチラシ、ゴミ箱にポイする筈なのですが、どこかで誰かが 「行ってみたら?」 と言ったような気がしてその時はポイせずにバッグにしまい込みました。
チラシの事などすっかり忘れ仕事を何とかこなし、ようやく退社時間。 駅までフラつきながらも何とか電車に乗り込み席に着く。
少しホッとしながら本を読もうとバッグを開ける。
とその時、朝しまい込んだチラシが目に入り少し気になって本の代わりにそれを取り出ししばらくボーっと眺めていました。
ボーっとする頭の中で、英語を話せる自分が海外旅行に行き久しぶりの休暇を満喫する姿、外国人の友達と楽しそうに食事をする姿、洋画を見て笑う姿・・・そんな夢のような自分を想像していました。
そして小さな決意を胸に 「どうせ独り身で時間もあるし、自由になるお金も少しならあるし、男にフラれた腹いせにいっちょ通ってみるか」 なんて安易な考えでその日の帰り道○○英会話に吸い込まれるようにして入っていったのでありました。
「第3話 顔面蒼白」
スクールに入ると身なりの整った女性が丁寧に対応してくれました。
一通り学校のシステムや料金などを説明した後、「では、これからレベルチェックをします」
(えっ!?レベルチェックとはいかに?) と焦る私の気持ちとは裏腹にその女性は別室に私を案内し 「ではこちらでお待ち下さい。 外国人講師がすぐに参ります」 と言いながら涼しい顔をして受付に戻っていってしまいました。
*レベルチェックとは・・・(皆さんはご存知かと思いますが)どのくらいの英語力があるのかをチェックする事。 そのレベルによって自分のクラスが決まると言うもの。
「おっ・・・置いてかないでぇ〜」と良い年をして泣きそうになりましたが、
(一応、中・高と英語の勉強は学校でしてきたし何とかなるだろう・・・)とタカをくくっていたのですが、いざ先生が来ると頭の中は真っ白に!
私のレベルチェックをするため部屋に入ってきた先生は長いブロンドの髪、スラッと背が高く綺麗な目をした女性でした。 私はもうそれだけで緊張してしまいスクールの門をくぐった事をちょっと後悔。
そして長い髪をかき上げながら先生が席に着き質問を始めました。
Hello. How are you? と聞かれて 「ハッ・・ハロー」 とカタカナ英語で答えるのがやっと。
What’s your name? と聞かれりゃ、 「えっ?ネーム?名前を聞いてるんだよね。 あーっと、えーっと、名前・・・名前・・・私の名前なんだっけ???」
自分の名前が分からなくなるほど記憶がブっ飛んでしまいました。
もう救いようがありません。
その後は一枚のB4サイズ程の絵 (音楽を聴いている人、ベンチに座っている人、食事をしている人等々いろいろな絵が描かれてありました) を私に見せ2,3質問してきました。
覚えている限りの会話はこんな感じ↓
一人の男性が音楽を聴いている絵を指して・・・
講師 「彼は何をしていますか?」と(多分そう聞いたと思う)
私 「えーっと・・・ミュ、ミュージック それから・・・・ リスニング 」
次に講師はテーブル下にいる犬の絵を指差し・・・
講師 「この犬は何処にいますか?」と(多分そう聞いたと思う)
私 「ドッグ?、ドッグは・・・えーっと、 ダウン・・・・・・テーブル 」
(なんじゃそりゃ???)
覚えているのはこれだけ。
他にもいろいろ聞かれたようなのですが全く分からず、冷や汗は止まらないし、顔面蒼白にはなるし、口はガクガクで最後はフラフラでした。
時間にしてほんの15分位でしたが、まる1日身柄を拘束されたような感じでした。
「何とかなるだろうとタカをくくっていた事が何とかならなかった事」
「何であの時もっと勉強しなかったのか?」
「今まで私って何をしてきたんだろう?」
と反省と後悔の念で頭はいっぱいで初めて身をもって「後悔先に立たず」という意味が分かったような気がしました。
しかし後悔ばかりしていても前には進めません 「ここで諦めてなるものか!自分を変えないと!」 と自分を奮い立たせその日のうちに英会話学校への入門を決意したのでありました。
今思えば外国人と向かい合って話したのはこれが初めてでした。
最低最悪のレベルチェックが終わり、下された診断は悲しい事に最下位クラス。
まぁ、ドッグ、ダウン、テーブル・・・なんて言っている位ですから当然ですよね。
ここじゃ年齢なんて全く関係ありません。 英語のレベルでクラスが振り分けられます。
各レベルの内容を全て理解できたら次のステージへとレベルアップしていく方針。
最下位クラスのテキスト、ワークブック、CDを買わされ(Oops! 買いまして)スクール通いが始まるまでの2,3日は落ち着きませんでした。
そしていよいよレッスン初日、ドキドキしながら指定された教室に入ると制服を着た男の子が一人ちょこんと座っていました。
「あれ?どうみても中学生みたいだけど、この子と一緒にやるのかな?」
そう思っているうちにチャイムがなり先生が入ってきました。
そしてレッスンスタート。
最初は簡単な挨拶から始まり次に自己紹介、そして最近の出来事などを話しウォーミングアップ。
(私にとってはウォーミングアップなんて言っている余裕は全く無かったですが)
大人しそうなその制服男子はいとも簡単に自己紹介を済ませ先生の質問に流暢に答える。 さて一方の私はアタフタしながらつっかえつっかえ・・・もう舞い上がっちゃって自分で何を言っているのかワケが分からなくなってしまいました。
レッスン内容も一体何をやったのか?全く覚えておりません。
ただ冷や汗をたらたら流し、口がカラカラに渇いたのだけははっきりと覚えています。
あ〜あ、、、情けないやら恥ずかしいやら。
おまけに年を取るにつれ「羞恥心」というものが芽生えるようで 「間違ったらどうしよう?」 「間違ったら恥ずかしい」 と余計な事ばかりを考えるあまり声も次第に小さくなるばかり。。。
しかも一緒にレッスンを受けている相手は中学生ですから羞恥心に拍車がかかってしまいホントこれまた最悪なレッスン初日でした。
その制服男子は中学校1年生で将来のアメリカ留学に備え勉強しているのだとの事。
つい最近まで小学生だった子と三十路リーチの女が一緒にレッスンを受けている光景、しかも相手にリードされながらのレッスン姿なんぞ親が見たら泣くだろうなぁと思いながらトボトボと家路に向かいました。
それにしても中1で将来の留学に備えて英会話を勉強しているとは、いやはや恐れ入りました。
私が通っていた英会話スクールは9段階のレベルに分かれていました。
レベルが上がれば上がるほどステップアップが難しくなると言われました。
当時スタッフから英語のレベルについての内容や生徒数について説明を受けたのはこんな感じでした↓ ( )内は通っていた学校の生徒数を100としてパーセンテージで表したもの。
1番上 ネイティブレベル (0%)
2番目 ほぼネイティブレベル (0%)
3番目 ビジネスで英語が問題なく使える(2%)
4番目 海外在住ができる(8%)
5番目 文法のほとんどが理解できる(10%)
6番目 海外旅行に行ける(15%)
7番目 簡単な会話が出来る(25%)
8番目 簡単な挨拶が出来る(25%)
9番目 挨拶すら出来ない(15%)
当然私はこの9番目。
「自分はどのくらいのレベルまでなら行ける可能性があるのだろうか?」 と入学時にスクールスタッフに聞いたところ最初に言われたのが、
「YUKOさんは9番目のレベルですから例えば3年間通ったとして6番目のレベルまでなら何とか頑張れば上がれる可能性がありますね」
と・・・
これは良いことなのか?悪い事なのか?6番目のレベルと言われても、挨拶もろくに出来ない私には全くイメージが浮かびませんでしたが、1つ分かったのは 「英語ってそう簡単に話せるようにならないんだ」
と言う事。
個人差はあるけれど気の遠くなるような長い長い時間をかけて習得するものだと。
果たして、これから始まる英語の長い旅はどんなものなのだろう? 上を見たらキリがないけれど下を見たらキリがある私は覚悟を決めて長い旅の準備を始めました。
第6話へつづく

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